「江戸川乱歩傑作選」江戸川乱歩
- 作者: 江戸川乱歩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1960/12/27
- メディア: 文庫
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傑作選の名に恥じない傑作選。好きなのを挙げると「二銭銅貨」、「屋根裏の散歩者」、「D坂の殺人事件」である。特にも「屋根裏の散歩者」がタイムレスに響くテーマを持つ出色の出来だと思います。主人公郷田の抱える鬱屈した気持ち「この世がひどく退屈でうんぬん」のくだりは、乱歩自身の心の叫びとも解され、乱歩の創作のふるさとに迫る文学史に残る素晴らしいパンチラインだと思います。あらゆる娯楽を試してみるも結局唯一の興味は「犯罪」。その事自体は本人のせいだとはっきりと糾弾できぬでしょうが、「犯罪」にまつわる本か映画など、「犯罪」が生んだ二次的なものにふれるうちはいいとして、実際に襟元を血で濡らすような「犯罪者」となれば可愛げなど微塵もありません。デクスターのような、必殺仕事人ような抜け道(殺人犯殺し)を肯定することも難しいななどと思考が飛びました。さて、お遊び的な読み方として「屋根裏」に入るのは「匿名の存在」になることを意味し、相手の生活ぶりを窺うわけだから、「屋根裏」を「ネットの掲示板」を読み替えると面白く読める。郷田の時代にインターネットがあれば、明智にニコニコと微笑みを受けながら厳しいことを言われずに済んだのかもしれませんね。