(日常)店の名前はメッセージ

だいぶ昔、先輩たちと昼間に「喫茶フレンドリー」という店に入った。


さて、何にしようかとお品書きを眺めていると


西岡徳馬に墨汁を塗ったくったみたいなギラギラ系の店のオヤジが


「ここきたら、コーヒーセット。決まってんの」とか「全員コーヒーセットね。」とか「コーヒーセット」の剛力綾芽の売り出し方みたいなごり押しを始め出した。


「自慢の一品ですから味わって下さい」というよりは、「俺の店なんだから、いうこと聞けよ」という口ぶりだった。


いやだなぁ、自分で決めたいなぁと思い「う〜ん、何にしようかなぁ」と意に介さない態度をオヤジに示して抵抗したのだが


オヤジはだからどうしたのと言わぬばかりに、ブルドーザーの馬力で再三に渡って「悩むなら、コーヒーセットでいいでしょ。」、「はい、コーヒーセット。決まりね。」とオフェンスの手を緩めない。


ついには、全員面倒臭くなりそろって「コーヒーセット」を注文した。


すると、オヤジは勝ったみたいな表情で、百万ドルの笑顔になった。


しばらくして、「コーヒーセット」が運ばれてきた。


あれだけグイグイ押し込んだのだから、そこそこの味なのだろうと口をつけたが


どういう味と問われたら「コーヒーセットの味」と答えるしかないような一つのパンチもないあー知ってるという味だった。


むしろ、オヤジに気分を害されたことを加算すると「まずい」とさえ言える仕上がりだった。


我々は会話を楽しまずに事務手続き的に「コーヒーセット」を片付けると勘定を支払いすぐに店を出た。


その後、近くの公演で話し合いが行われた。


結論はこうだ。


オヤジと我々の思う「フレンドリー」がすれ違っていたのではないかということだ。


オヤジは「フレンドリー=友達だから遠慮なくガンガン行ってよし」で、我々は「フレンドリー=友達みたいに親しみやすく、愛想よく」と思っていたのではないか。


いずれにしても、それ以来、店の名前にメッセージが入ってるようなところは、変な先入観も持つし、極力避けるようにった。


もちろん、その店は今はもうない